芦屋の坂道でブレーキ制御不能による事故多発:地元住民の恐怖と対策

兵庫県芦屋市に事故が多発している県道がある。六甲山から続く長い下り坂。トラックなどが、ブレーキを踏みすぎて利かなくなる「フェード現象」に陥るのが原因とみられる。地元では「ライト坂」と呼ばれる道だが、あまりの急勾配ぶりに「ライトではなくヘビーな坂」といった冗談も聞かれる。しかし、事態は深刻だ。付近に小学校の通学路もあるこの坂で令和元年以降、少なくとも7件の事故が起きている。現場を訪ね、不安を募らせる住民や事故関係者らの話を聞いた。

「気付いたらブレーキが利かなくなっていた」今年発生した事故のドライバーを知る男性は、事故の状況をこう説明した。

この日、ドライバーは約3トンの荷物をトラックに積み込んでいた。予定していたルートが分からなくなり、急遽(きゅうきょ)、ライト坂と呼ばれる県道奥山精道線を下ることになったという。

初めて通ることになった坂道を下る途中、「気付いたらブレーキが利きづらくなっていた」。トラックは制御不能となり、横転して電柱に衝突した。

ドライバーは「こんなに坂が長いとは思わなかった。運行予定が乱れ、焦りもあった。さらにブレーキが利きづらくなってからは、パニックに陥り、冷静な対処ができなかった」と話していたという。

過積載や整備不良などはなく、フェード現象が主な事故原因とみられている。男性は事故で「多くの方にご迷惑をおかけしてしまい申し訳ない」と話した。

現場の坂は、芦屋市などを走る有料道路「芦有ドライブウェイ」の芦屋ゲートから約4キロにわたって下る坂。沿道にあるヨドコウ迎賓館を設計したフランク・ロイド・ライトの名前から地元ではライト坂と呼ばれている。高低差は300メートル以上にもなるという。

兵庫県警芦屋署によると、令和元年以降、少なくとも7件の事故があり、捜査中の1件を除く6件で、フェード現象によるブレーキトラブルが原因だった。 フェード現象は、長い坂を下る際、フットブレーキを多用することでブレーキパッドが耐熱温度を超えて過熱され、摩擦力が低下してブレーキが利かなくなることをいう。

トラックが軽四貨物に追突して負傷者が出たり、大型貨物が電柱2本をなぎ倒し、周辺が停電したりしたこともあった。

相次ぐ事故に、地元住民は危機感を募らせる。事故が多発するエリア付近には小学校がある。子供が通う30代女性は「いつ巻き込まれるかわからないので、すごく怖い」と顔を曇らせる。

住民らは任意団体「ライト坂の交通安全対策を求める会」を設立し、県に署名と陳情書を提出。県や市に改善を求めた。児童が事故に巻き込まれないように、登下校時の見守り活動なども行われている。

事故を防ぐにはどうしたらよいのか。トラック協会西宮支部長を務める中島輝夫さん(62)は、「実際にフェード現象が起こると焦ってパニックになってしまい対処するのは難しい」と指摘。「エンジンブレーキをしっかりと活用し、スピードを出しすぎないようにすることが大変重要だ」と話す。

トラックを長年運転していた輸送会社「ユービーエム」の谷口泰史さん(52)は、運転手の技術向上を図ることが重要だと指摘。「事故を起こさないためには車両点検や教育制度をしっかりと整えることが必要」だという。

«長い急な下り坂、止まって冷やせ»«「ブレーキ過熱事故!エンジンブレーキ!»«低速ギア»…。ライト坂にはこう書かれた看板などが20個近く設置されている。

芦屋市長や芦屋署長らが「エンジンブレーキを活用しましょう」というチラシを大型車のドライバーらに配布する活動も行われた。

沿道には歴史的な建築物や個性豊かな邸宅が並び、眺望も魅力のライト坂。事故がなくなり、住民らが安心できる日が待たれる。(安田麻姫)

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