昔から「人の噂も七十五日」と言われるが、岸田文雄首相についた負のイメージはそう簡単には消えることがなさそうだ。数々の増税プランを机上にのせる岸田政権は、物価高や円安対策などへの感度が鈍く、内閣支持率の続落を見ても国民の怒りが拡大していることがわかる。SNS上では「増税メガネ」なる不名誉な異名をつけられ、行財政改革に切り込むことなく膨張させる予算への不安も尽きない。経済アナリストの佐藤健太氏は「首相は国民の不満を受けとめておらず、目を逸らすために『外敵』を設定し、先のことばかりを論じている」と指弾する。

またも“岸田流サプライズ”が飛び出した。首相は8月31日に開いた新しい資本主義実現会議で「2030年代半ばまでに全国加重平均が1500円となることを目指す」と表明し、最低賃金(最低限の時給)を1500円にアップさせていくことを強調したのだ。もちろん、政府による目標設定は重要だろう。ただ、国民が足元の物価高に困窮するタイミングで「2030年代半ば」と中長期ビジョンを語る姿に疑問を抱いた人々は少なくないはずだ。
毎年見直されている最低賃金は10月から全国平均が1004円になり、初めて1000円台を突破する。ただ、最低賃金の全国平均は20年前の2002年度は663円で、2022年度の961円と比べて298円のアップにとどまる。にもかかわらず、首相はこれを「2030年代半ばまで」の十数年間で約500円上昇させるというのだから、よほど明確なビジョンをお持ちなのだろう。
思い出されるのは、首相が発してきた数々の「迷言」だ。2021年9月の自民党総裁選の際、岸田氏は「分配なくして次の成長はなしだ」と訴え、小泉純一郎政権からの新自由主義的政策を否定してみせた。いまだ中身が見えない「新しい資本主義」を掲げ、令和版「所得倍増計画」をスローガンとして打ち出したのは記憶に新しい。
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