土地を相続した人が、使い道がない場合に国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」の申請受け付けが4月から始まり、各地の法務局に相談が相次いでいる。所有者がわからない「所有者不明土地」が全国的に増加する中、国には、利用していない土地をあらかじめ手放すよう所有者に促し、将来的に管理されずに放置されるのを防ぐ狙いがある。新たな制度を巡っては、土地を手放したい所有者につけ込む悪徳商法の被害が増える懸念もある。

相続土地の固定資産税問題
「長年放置している山林がある。子や孫の世代に残したくない」。7月、大阪法務局(大阪市中央区)に開設された相談窓口に大阪市の60歳代女性が訪れ、悩みを切り出した。亡くなった夫から相続した山林にかかる固定資産税が負担になっているという。新制度を利用するには隣接地との境界を明確にする手続きが必要だと助言を受けた女性は、「土地を引き取ってもらえそうで安心した。親族に相談しながら進めたい」と話した。
所有者不明土地の増加とその対策
相続時に土地が不要な場合、相続放棄の手続きがあるが、同時に預金などの資産も手放すことになるため、この手続きをとらない人が多い。土地が放置され、登記の名義変更が行われず、所有者と連絡がつかないケースが後を絶たない。国土交通省が2021年に実施した調査では、国内の土地の24%で所有者不明となり、このうち登記名義人の死亡時に相続手続きが取られなかったケースは62%を占めた。
相続土地国庫帰属法の施行とその影響
新制度は、土地を手放しやすくするため、21年成立の相続土地国庫帰属法で定められ、今年4月に施行された。来年4月からはこれまで任意だった相続登記が義務化されることになった。全国の法務局に専用窓口が設置された2月末から約2か月間の相談件数は、約3900件。申請の受け付けが始まった4月27日から6月末の約2か月間では約6500件に増えている。土地の処分に長年困っていた人が多いことが浮き彫りになった形だ。
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