〝2段モーション疑惑〟からの完璧なリリーフ:神村学園・黒木陽琉の8強進出とその舞台裏

〝2段モーション疑惑〟からの完璧なリリーフ:神村学園・黒木陽琉の8強進出とその舞台裏

それこそ〝災い転じて福となす〟とでも言おうか。北海・熊谷の2ランが飛び出し、3点差に追い上げられた5回1死からマウンドに立った神村学園の左腕・黒木が、残る4回⅔をノーヒットに封じ込める完璧なリリーフ。神村学園初となる夏の甲子園8強へ導いた。

「自分が投げる前に(先発の)松永のスライダーに対して、北海高校さんが(ボールを捉える)ポイントが前になっていた感じがあったので、うまく低めにカーブを投げられたのが良かったのかな、と思います」

183センチの長身から投げ下ろすカーブを、それこそ、ベース手前にワンバウンドさせるくらいに、徹底して低めを突いたことで、5回途中まで7安打と当たりが出てきていた北海打線の勢いを完全に止めた。

「外角と低めにきっちりと投げれば、抑えられる自信はありました」

6回無死からは4者連続三振。許した走者も2四球のみで三塁すら踏ませず、打者16人から6三振。まさしく圧巻の投球内容を見せながら、登板前は「もう、終わったな…と思いました」。

苦笑いで明かした、その〝絶望〟の原因は、3日前の14日に行われた2回戦・市和歌山戦の試合中に指摘された〝2段モーション疑惑〟だった。

市和歌山戦も2番手として登板した黒木は、3点先制直後の1回2死満塁から登板。このピンチを空振り三振で切り抜けると、5回まで無失点。ところが、5点のリードを背に順調に投げ続けてきた6回、1死一、二塁のピンチを招いた時のことだった。

「ボーク」

そのジャッジを受ける前から、一塁塁審にも二塁塁審にも、重ねて注意を受けていたという。

「止まっていない」

「直さないと…ちょっと分からないよ」

振り上げる右足のひざを、左太ももの真ん中あたりまで上げ、そこからさらに腰の辺りまで引き上げ、勢いをつけてから投げるのが、黒木のルーティンだった。プロ野球なら、恐らく問題のないスタイルだが、アマ球界では、この2段モーションは、投球モーションの静止と判断され、ボークとなる。

「フォームを直さないと、次の試合ではどうなるか、ちょっと分からないよ」。黒木は二塁塁審から厳しく指摘されたといい、3回戦に向け、フォームの〝突貫修正〟を余儀なくされた。

「自分自身、投球のバランスを意識して、一回止まってから、姿勢をよくして投げようとしていた感じはあるんです」

投球時の軸を意識し、ピンと背筋を伸ばしたフォームが黒木の特色でもある。小田監督とも話し合った上で、そこは変えず、振り上げた右足を止めることでの〝ため〟を意識する旧フォームから、一連の動きの〝流れ〟を重視する微修正を加えたという。

「一回、フォームを変えたりしてみたんですけど、やっぱりいきなりフォームを変えたらダメになるんで(動きが)止まらないように工夫しました」

その新フォームは、練習でも十分、手応えがつかめた。ただ、試合前に黒木が仰天したのは、この日の球審・井狩審判が黒木の2段モーションを厳しく注意した、3日前の二塁審判だった。

「球審の審判さんの名前を見た時に、あの方で…。もう終わった、と思いました」「僕のフォーム、どうですか?」

そこで、慎重には慎重を重ね、試合中にピッチャーズプレートの土を払いに来る塁審がマウンドに来る度に「僕のフォーム、どうですか?」と尋ねたのだという。

「審判の方とも、一回一回コミュニケーションを取りながら、スムーズに投げたのがよかったのかな、と思います。審判の方、結構優しく言ってくれますんで」。

結局、この日はボークも取られず、投げても最後までノーヒットと「自分自身、止まらなくても投げられる感じもあったので、うまくはまった感じがします」。小田監督も「逆にうまく修正できたのだと思います」と評価しながら、指揮官の方は、3日前の二塁塁審がこの日の球審だったことに気づいていなかったそうで「えっ? 同じ方だったんですか? 黒木は私より、落ち着いていますね」と感心しきり。プロも注目する好素材の左腕は、準々決勝のおかやま山陽(岡山)戦へ向け「日本一を目指しながら、先を見すぎず一戦一戦頑張っていこうと思います」。その〝新フォーム〟で、さらなる飛躍を誓った。

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